la metamorphose

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すごい舞台が今この東京で上演されているわけです。

カフカの『変身』と言えば、誰もが「ああ、あの不条理のね」と言うでしょう。ある朝目覚めたら、虫に……なんちゃって。“不条理”のひとことで説明されてきたファンタジーは、強烈すぎるイメージとして記憶に残っていました。

初日カーテンコールで、最後列からぶかぶかのタータンチェックのスーツで駆け降りながら、舞台上にサムズ・アップで称賛を贈った演出家さんとは、イギリスの個性派俳優、Steven Berkoff。『時計仕掛けのオレンジ』(1971年)にも出演しています。68年からロンドン・シアター・グループを主宰、当時、『変身』では製作、脚本、演出、主演と4役をこなしました。もう40年以上も前です。主演はその後、ロマン・ポランスキー監督であったり、あの、ロシアから亡命したバレエダンサー、バリシニコフであったり、日本初演では宮本亜門氏でした。亜門氏が語るには、日本公演にあたっての演者のリクエストは「役者ではない人」だったらしいです。18年前のことです。

ピクチャ 4

最初の写真は、舞台のオープニングです。幕が開いて1拍置いて、まだ虫になる前のグレゴールが、なめらかで、でも機械仕掛けの人形のような動きで歩きはじめたとたん、見る方は魔法をかけられたごとく物語の世界に運び込まれます。身を削って働きながら、いつも心にかけていた妹に語りかける……グレゴールは、この妹の弾くバイオリンを愛し、音楽学校でさらにその才能を開化させて欲しいと望んでいました。

出演者は皆白塗りメイク、動きはパントマイムを取り入れています。非日常を象徴していますが、この舞台を見終わった後に感じるのはリアリティです。虫になってしまったグレゴールの葛藤と悲しさ、日常に埋もれていた家族への愛情……そして現実を受け入れることが出来ずに最後は彼をなんと、なかったことにしてしまう家族の残酷さ。

ピクチャ 1

ジャングルジムのような、蜘蛛のようなパイプをはりめぐらしたセットの中央に、姿・形は人間なのに、超絶アクロバティックな動きと、指先まで神経をとがらせた虫がいます。御他聞にもれず私も虫嫌いですが、途中、触手を“ウゴウゴ”と動かしながら交差させ、シルエットで見せるシーン、これには虫なのに見惚れます。この舞台が、いとも美しい叙情詩として成立しているのは、主演俳優の力です。“身体能力”の先に彼が表現しようとする、幻のようななにかを見るのです。

もういくつ、この俳優の舞台・作品を見てきたでしょう。見る度に想像を超えた世界に度肝をぬかれました。それが毎回ともなると、当たり前になってきます。なんという贅沢! この舞台、日本語のままロンドンに持っていったとしても、拍手喝采の嵐になることを確信します。

舞台はル・テアトル銀座で22日まで。当日券もあるようです。地方公演は、岡山・大阪・福岡・富山・新潟。

カフカの「変身」

パルコ劇場


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